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障がい者雇用で儲ける? ―― 久遠チョコレートに学ぶ「福祉×経営」の本気のスイッチ

多様性を力に変える社会
――「仕方ない」は変えられる。

~人はみんなでこぼこ センスある社会へ~のテーマで、全国で注目される久遠チョコレートの夏目浩次社長にご講演いただきました。

講演当日の会場近く、糸満市塩崎ビーチ。素晴らしい晴天に恵まれました。
講演会場となった「くくる糸満」。200人を超える参加がありました。

「障がい者雇用で儲ける?」

そう聞いたら皆さんはどう思いますか。 
「障がい者雇用を活用している会社の話?」「 それとも障がい者雇用を促進する話?」。

経営者であれば、いやいや、うちは現状で精一杯、障がい者雇用は無理だな…と考える方が多いのでは。
障がい者雇用と経営の両立は難しいと。

そんな中、従業員約800名のうち、400名強が障がい者手帳を持つチョコレート屋さん、 久遠チョコレートの夏目浩次社長の講演会が2025年10月4日に糸満市で開催されました。

沖縄県中小企業家同友会が主催する第19回 「就労・支援フォーラム」の基調講演としてご登壇いただきました。

今回は対談形式ということで、聞き手として私が担当しました。

フォーラム実行委員会と、中央に夏目さん

久遠チョコレートの挑戦:
従業員の半数が障がい者

久遠チョコレートは、夏目さんが26歳のときに始めたパン屋さんがスタートです。

宅急便の創始者、ヤマト運輸の小倉昌夫さんの著書、『福祉革命:障害者月給1万円からの脱出』を読まれたことがきっかけです。交通バリアフリーを研究する大学院生であった夏目さんは、障がいを持つ方の賃金(工賃)があまりにも低いことに憤りを覚えます。

また小倉さんが障がい者雇用を広めるために始めた、スワンベーカリーの加盟店に参加したくて、何度も小倉さんに手紙を書き、ようやくお会いする機会を得ました。

しかし、加盟店への参加どころか、あまり相手にもされませんでした。 それでも諦めきれない夏目さんは、自分でパン屋さんを始めます。

「花園パン工房ラ・バルカ」そこからの悪戦苦闘の物語は映画『チョコレートな人々』( https://tokaidoc.com/choco/ )で描かれています。そんな夏目さんが、なぜそこまで福祉と経営の両立にこだわり続けられたのか。
苦難の中で貫かれた思いを伺いました。

夏目さんを突き動かす4つの力

夏目さんとお話して感じたのは、次の4つの力です。

  • 義憤
  • 負けず嫌い(負けじ魂)
  • 逆境に負けない
  • 実践するアイディアマン

最初の「義憤」。これはヤマト運輸の小倉昌夫さんも同じです。自身が始めた宅急便で、当時の監督官庁「運輸省」を相手に規制緩和を求め訴訟を起こしました。

そして障がい者の工賃が低すぎると憤ったのもまた、同じく義憤からです。

次に「負けじ魂」です。小倉さんも、夏目さんも、新しいビジネスやアイディアを始めるとき、たいてい周りは全員反対になるそうです。でもそこで負けじ魂に火が付き、より頑張るという構図があります。

通常なら、調査したり、周りの賛同を得られないと新規事業は進められないものですが、ある意味、お二人には、そこが義憤というエンジンにガソリンを注ぐことになっているかもしれません。

最後に「逆境に負けない人」、であり「実践するアイディアマン」。

小倉さんも当時の運輸省から認可が下りず、夏目さんも、資金が尽きそうになったり、品質が安定しないとか、ロスが多いとか、自分で作った社会福祉法人から追われるとか、散々な目にあいます。でも逆境で落ち込むことがあっても、決してへこたれない。

直感でいけると感じたら、どうしたらできるかを逆算し、実行に移す。

その繰り返しが、常識では不合理と思われていても、世の中に必要なサービスを生み出しています。

現状をどうしても変えたいというエネルギーが実を結んだとき、世間の常識を覆す驚きと感動のビジネスになっていると思います。

対談風景

「手間ひま(リスク)を引き受ける人」が社会を変える

夏目さんや小倉さんのビジネスの話を聞いて共通するところは、世間で手間ひまがかかる不都合と思われることを引き受けていることです。

障がい者雇用は手間ひまがかかる、宅急便は小口配送で手間ひまがかかる。そのような手間ひま(労力と時間)がかかり、「収益化は無理」と誰もが思うことを引き受け、一般のビジネスに劣らない品質やサービスを作り上げたとき、世間の常識が破られブレークスルーが起きる。

その現象は、飛躍した会社に見受けられる共通したところです。 その秘訣は夏目さんが「本気のスイッチ」を押し続けたからだと思います。

経済で福祉を支える
──「経世済民」という考え方

印象に残ったこととして夏目さんは、障がい者雇用を福祉の観点だけでなく、経済として捉えています。

「福祉だから儲からなくてもいい」という考え方があります。夏目さんはその気持ちを理解した上で、「経営としても成り立たせて、社会に認められる存在にしたい」という気持ちを強く持っています。

夏目さんが考える持続性のある理想的な社会は「経世済民」―― 経済をとおして弱い立場の人にも寄り添える社会づくり。経済の一丁目一番地は成長や生産性と言われがちですが、夏目さんは弱い立場の人も寄り添い、共に豊かになることが経済の目的と語っていました。

それは、福祉を保護的な観点からみて、商売や経済とまでは考えていなかった人にとっては、価値観を揺さぶられる話になったとおもいます。

私は夏目さんのその考えを打ち合わせで聞いたときに、「それは渋沢栄一さんの『論語とそろばん』と同じですね」と話しました。論語(道徳)と、そろばん(経済)が並んでこそ、豊かな社会ができる。

どちらかに偏るわけでなく、その両方を追求している夏目さんの本気度に深く感銘したのでした。

おわりに:
一人ひとりが本気のスイッチを押す

講演での質問「どうすれば、夏目さんが思い描く、丁寧でシンプルな社会が実現できるか」との答えとして、「一人ひとりが本気のスイッチを押しましょう」。そうすれば世の中は変えられると話していました。

「本気のスイッチ」心で思う理想の自分や社会をつくる行動に踏み出していくスイッチのこと。

その答えは、講演を拝聴した私たちへ、一歩踏み出す勇気を優しく諭してくれたように思いました。

そのスイッチを押すのは自分次第。私はいつ押すのか、もう押しているのか? 自問しながら、会場の一人ひとりが本気のスイッチを押して、各々が理想とする社会づくりにチャレンジしていくという、夏目さんからの温かいエールを受けて幕を閉じました。

そして講演を終え、夏目さんの著書やチョコレート販売に並ぶ大勢の笑顔を見たとき。対応する夏目さんの笑顔を見たとき、充実した講演会になってくれたのだと感じ入りました。

これからも、夏目さん、そして久遠チョコレートのビジネスがさらなる飛躍を遂げ、私たちを驚かせてくれる企業であり続けることを心より願っています。

講演会に参加した一人ひとりが、本気のスイッチを押すきっかけになれば、スタッフの一人として幸いです。

夏目さんの提唱する「シンプルで丁寧な社会づくり」にチャレンジしていければとおもいます。

講演会後、販売コーナーにて夏目さんと自社スタッフ・家族